logo edufrance

矢倉英隆さん:パリ第1大学パンテオン-ソルボンヌ

『哲学する時間としてのフランス留学』
矢倉英隆さん
パリ第1大学 Université Paris 1 Panthéon-Sorbonne 修士課程に留学中

Illust : line trefle short, 2.7 kb, 395x15
 
Illust : 矢倉英隆さん (...), 36.7 kb, 155x139
2007年秋からパリにおいて科学哲学を学びながら考える生活をしています。仕事を終えた後でのこのような経験も何かのお役に立つのではないかと考え、執筆を引き受けることにしました。

2007年春までは、自分の仕事は永遠に続くものだと無意識のうちに思いながら自然科学の分野で研究生活を送っていました。ところが定年が目の前に見えた時に初めて、この世には自らの力ではどうしようもないものがあることを感じ、そこから自らの終わりにも想いが向かっていました。同時に、仕事で使われている頭の領域が極めて狭いことにも気づくことになり、すべてが終わる前の時間をできるだけ広く頭を使うように過ごしたいと思うようになっていました。大げさに言うと、それまでは仕事に追われて手がつけられなかった人類がこれまで積み上げてきた遺産に触れることなくこの世を去ることが耐え難いことのように思えたということになります。学生時代に聞いたリベラル・アーツという懐かしい響きも蘇っていました。

もう一つ、今から思うと重要だったことに、実に不思議なフランス語との出会いがありました。未だになぜかわからないのですが、2001年春にフランス語がわたしの前に突然現れたのです。それ以来、何かのためではなく、ただその言葉に触れることで感じる無垢なる悦びがそこにあるというだけでフランス語を続けてきました。目的なしにそのもののためだけにやるということは、わたしの人生で初めての経験かもしれません。

このような背景のもと、最初に思い描いていたことは、フランスで哲学関係の研究室に出入りしながら、自分の持っているすべての時間を自由に使って人類の遺産を発掘し、自らの思索を深めたいという漠然としたものでした。しかし、どのような具体的な方法があるのかわからずに試行錯誤を繰り返していたようです。結局、希望を満たすような形でフランスに滞在するには学生になる以外に方法はないというところに落ち着きました。何と入学手続き締切ぎりぎりのこちらに来る数ヶ月前というタイミングでした。詳細は私のブログに書いてありますのでご参照いただければ幸いです。

Illust : 真夏のソルボ (...), 58.3 kb, 261x199
留学先としては科学哲学関係のところを探していたのですが、メールでは埒が開かず二度ほど現地に足を運んでいます。学生になることなど考えてもいなかったこともあり、フランスの大学の状況は何も知りませんでしたので、実際に来ることで得られた情報は計り知れないものがありました。もし現地に来ていなければ事は進んでいなかったのではないでしょうか。この間、フランスの大学の状況を知るために日仏学院内のCampusFranceを訪問したことがあり、そこでフランク・ミシュランさんから伺ったご意見には大いに勇気づけられたことを思い出します。

結果的には、パリ第1大学、第4大学、第7大学、それにエコール・ノルマルが参加しているLOPHISS(Logique, philosophie, histoire, sociologie des sciences:科学の論理学、哲学、歴史学、社会学)というコースがあることがわかり、第1大学のJean GAYON教授にコンタクトを取ったのが始まりになります。

大学院は教授の勧め通りマスターコース1年目から始めました。フランス語を始めて5-6年、こちらの大学でフランス語を学びましょうなどと考えていた者にとっては大変な学生生活になりました。フランス語はもちろんですが、マスター1年目は幅広く学ぶことが求められていますので全く新しい情報が怒涛の如く浴びせられる講義に圧倒され、最初の半年はこれから先どうしようかと考えていました。コースごとの小論文や学年のメモワールは大変ではあるのですが時間をかけられるので何とか処理できたのですが、筆記試験と口頭試問には苦労させられました。しかし、教授の助言は的確だったと思います。1年目のこの経験がなければ、2年目で求められるインタラクティブなクラスには全く付いていけなかったと容易に想像できるからです。お蔭様で最近あったマスター2年目のプロジェクトを発表する会も何とかクリアし、現在は2年目のメモワールに取り掛かっているという状態です。

Illust : マスターコー (...), 58.1 kb, 302x215
フランス留学がどのような影響を与えているのか、まだその途中なのではっきりとはわかりません。ただ、若い時にアメリカで研究生活を送り、その影響下で長い間を過ごしてきた者にとって、功利主義的な傾向の少ない考え方に目を開かされていることだけははっきり言えると思います。ものを考える時にまず枠組みのないところから始めることの大切さを思う時、今フランス的なものの見方があらゆるところに求められているのではないでしょうか。そういう複眼的な視点が得られたことは今回の留学の大きな贈り物のように感じています。これから先どのようなことになるのかわかりませんが、日本とフランス、あるいは科学と哲学の境界でどのようなことができるのかを模索しながら進みたいと考えているところです。

最後になりますが、大学の状況を紹介するページと日々の様子を伝えるブログを書いていますので、お暇の折にこちらの雰囲気を感じていただければ幸いです。

 → パリ大学スケッチ
 → A View from Paris

ポーランドのクラクフにて(2009年4月21日)

 
Illust : line trefle short, 2.7 kb, 395x15
 → 留学体験談、トップに戻る 

→ 前木香織さんの留学体験記

→ 古角かなたさんの留学体験記

→ 長谷川裕己さんの留学体験談

© CampusFrance 2010